『ビーンズ・デスゲーム』の話
――雪の降る大晦日。手も足もかじかませて寒さに身を震わせる一人の少女が、街往く人々に声を掛けます。
「どなたか、重い過去を持っているのにそれを一切明かさずにユーザー目線で二年間以上商魂たくましいおちゃらけキャラとして振舞い続けていた少女はいりませんか?」
どうも、てつはみです。
先日全編が更新された偽りのアリス第二部二章『ビーンズ・デスゲーム』。今回はそれの感想記事になります。
※ここから先は偽りのアリス第二部二章までのネタバレを含みます。ネタバレが苦手な方、自分の目で物語を見届けたい方などはブラウザバックをお願いします。
エマ最っっっっっっっっっ高!
・偽りのアリスというゲーム、ユーザーとの時間の使い方が上手すぎる。
一章のマリアも今回のエマも、アプリの最初期から居たアルターなので人によってはアリスと同じくらい一緒の時を刻んできているアルターな訳です。それで無くても、特にエマに関してはイベントだったりショップだったりでもちょくちょく見る機会があるんですよね。
だからどういう子なのかもある程度は理解している。いや、理解しているつもりになっている。その知っているはずのアルターが今まで隠し続けていた過去を解放して敵となる。こんな展開は皆大好きだし、アルターの事ももっと好きになるに決まってるじゃないですか。
・やっぱりマリアとクリス良い~~。こういうゆるっとした会話がもっと見れるのありがたい。
・キャシー……お前……。こういうキャラクターを出しても「まあ偽りのアリスだもんな」で飲み込めるのが偽りのアリスの強さでもあると思うんですよ。いや、正直あそこまでヤバいのを見せつけられると飲み込み切れないで喉の辺りで詰まってる気もするけど。ロキはそういえば一部四章でも辱めを受けてたな、とか思ったり。
・今回、アルター・ジャックが敵対するキャラではあるけど悪役では無い描かれ方をしていてちょっと新鮮に感じました。エマというより大きい悪役がいたからこそだと思いますが、敵でありながら後半では応援したくなるというか、強い言葉を使うなら主人公然としていた、とでも言うべきかもしれません。
どうしても先生とアリスを主人公として見てしまうので、ジャックたちは”主人公”よりも”仲間”という言葉がしっくり来てしまうのもありますが。
それでもやっぱり、グリムと対峙した時のアルター・ジャックの言葉は心に迫るものがありましたね。
・『惜しい』失敗作と『試作段階』の失敗作が存在する。創作において迷走とか模索なんて日常茶飯事だし、そりゃそうなんだけどこの世界でいざ言葉にされると重みが違う。
・本物になるチャンスを貰っても、この世界で出来るのが作者の脳内に帰るところまでなのだとしたら、『試作段階』のアルターが本物になれる可能性はあるのだろうか。……無いとは言わないけどかなり低そう。
もちろん作者が悪い訳では無いんだけど、やっぱり何とも言えない気持ちになってしまう。最後の決定権が外部に委ねられてしまうなら、この世界の争いの意味とは。*1
・Page40以降、ストーリーにオルタナティブを選んだ時の(A)の表記が最初から付いてるんですね。だからきっと本当はあの選択は正解じゃなくて、もっと簡単な正解があるんですよ。それこそ一部五章でアルター・アリスの願いを聞くように、二部一章でマリアを殺すように。
でも先生たちはそんな正解を選ばない。それどころか、もう選択肢の一つにすら出てこない。間違いであろうとも、あの場で言う言葉は『帰ってきてほしい』以外に無い。その決意をシナリオだけでなく、メタ的な目線でも描写してくれるのが本当に最高。
・エマ~~~~~~!!!!!
これまでの二年間、エマのクロニカがこんな話だったなんて一ミリの匂わせも無かったのに満を持してこれを持ってくるの、本当にズルい。
個人的な話ですがサービス開始最初期、エマをパーティに採用してた時期がありまして。その時にキャラストーリーも読んで「結局この子のクロニカはどんな感じだったのだろうか」と思った記憶があるので余計に刺さりましたね……。*2
ちなみに今はまたパーティに加わって元気にやってます。エマ強いんだもん。
着せ替え購入のストーリーもホントに最高。有料コンテンツなので詳しくは語りませんが一言だけ。エマは間違いなく『マッチ売りの少女』です。
・たった二つの台詞を使って全力でマウント(マウントではない)を取るアルター・アリスよ。すき。
アルターの話も尽きませんが、これからは司書の話。こっちも色々動きがありましたね。
・既にちょろっと名前を出しましたが、ついに前司書グリムが登場。一章最後でシルエットだけ出てた時に(あの頭の横のクルクルなんだ……?)と思っていた謎が解決されて自分としてはもう満足しました。嘘です。
思えば、アイテムにグリムの名を冠する物がいくつかあったりグリムの服にも薔薇の模様があったり、もしかしたら今の塵箱世界のシステムはグリムが作ったものなのかもしれない。リデルちゃん、ちゃんと司書のお仕事しようね。
・第一部における司書はアリス・リデル。そしてその前の司書がグリム。当人たちの発言でもそこに間違いは無いんですが、実はいくつか気になる事がありまして。
まずは記憶に新しいグリムの台詞から。
「前・司書、アリス・リデル。
一度奪った司書の座を一方的に私へと返還してきて。
その上……私の邪魔を」
(出典:ビーンズ・デスゲームPage41(A).決意)
一方でアリス・リデルはこう言っています。
「きっと、司書に選ばれたのは、このためだったんです……」
「私は……私には、関係がないっ!
司書の役目なんて、押し付けられただけなんだから……ッ!」
(出典:「アリス」Page6.アリス・リデル)
そう、二人の言い分がどうにも食い違っているんですよね。リデル曰く、本来司書には物語の作者や関係の深い人物が選ばれるとの事。これを本当だとして仮定を立てるなら、
司書としてふさわしくないはずのリデルを誰かが何らかの方法で無理矢理司書にする→そのせいで当時の司書であったグリムは司書の座から弾き出される→司書の座に収まったリデルをグリムは敵視。みたいなのが一番それっぽい。
・一応、上の説を補強する材料としては、リデルが司書として不完全である、という事が挙げられます。
リデルは失敗作を本物にするため、司書の意思の他にシルシが必要であるとして幻体を使ってアルター・アリスにシルシを付けさせようとしました。でも、二部で再度司書になったグリムは自分で好き勝手にシルシを付けています。
マリアだけなら『本来の作者*3だから出来た』という可能性がありますが、エマに関してはエマもグリムも言っている通り、アンデルセンの作品です。グリムは何も関係がありません。
・つまり本来『シルシは司書が自由に付ける事が出来る』わけです。だからリデルは、そのままアルター・アリスにシルシを付けてリコレクションを見届けるだけで良かった。でもそれをしなかった。リデルの目論見からしてそうしない理由は無いので、シルシの存在は知っていてもそれを自分で付ける事が出来る事は知らなかったんだと思われます。
「シルシと、司書の意思。そのふたつが揃って初めて、現実の物語に干渉ができます」
出典:(「アリス」Page5.あり得たもうひとつの旅路)
なのでこれも恐らく言葉足らずで本当は、シルシ(を持ったアルターがリコレクションした物語)と(その物語にGOサインを出す)司書の意思が揃って初めて(作者の脳内にアイデアとして戻ることが出来る)、みたいな話なんじゃないでしょうか。
・司書のシステムや権限がどうやって引き継がれるのか、マニュアルの書かれた分厚い紙束があるのか、司書になった途端脳内に流れ込んでくるのか、はたまた前・司書から口頭で引き継ぐのか、それは分かりませんがリデルに司書としての知識が欠けているのは非正規の方法で司書となったから、だとすれば納得は出来ます。リデルちゃん、仕事してとか言ってごめんね。
・さて、ではリデルを司書にした『誰か』って誰?そもそも何のためにリデルを司書に?
A.どっちも分かんない。パッと思い付く関係者としてはルイス・キャロルが居ますが、目的は予想も出来ません。今後の更新を楽しみにしておきましょう。
三章のプロローグは年内公開予定とのこと。三章プロローグでまたピリピリしてから、年始でダラダラしてる先生を見る事になるのでしょうか。脳がバグりそうで良いですね。
それでは、また。
*1:
余談その1。シルシの特別性を度々説いているグリムがわざわざシルシを与えているマリアやエマは『惜しい』側のアルターなのかな、と考えられます。ところで、作者の手によって葬られた『惜しい』側のアルターだと明言されてる子が一人居ましたね。メンタルブレイクの気配がします。
*2:余談その2。ちょっと前にルゥのキャラストーリーを読み返したら、
「他のアルターには何も感じないのに…先生を見てると…とってもお腹が空いて…」
ってセリフがありました。二年前は別に何も感じなかったんですが今になってみると、先生が実在する人間(リデル)から創られた存在である、というのをルゥの『人間の肉を必要とするアルター』という特性に絡めて遠回しに描写していたんだな、と気づいて凄すぎ……ってなりました(小並)
*3:余談その3。グリム童話ってグリム兄弟が昔話などを編纂して作った童話集の括りなので、厳密にはグリムも作者ではないし、一人で出てくるのもちょっと気になる話ではあるんですよね。グリムが女の子になってるのはもう今更なので何も言いませんよ?